中学二年にしてプロミュージシャンを志した私は、吹奏楽部とバンド活動に持てる時間の殆どを費やしていました。夢を一日も早く掴もうと焦ってしまい、高校を二年で中退、上京、バイト、タコ部屋暮らし、失望、挫折、Uターン、無職、半年間で転落へのフルコースを味わった様な気分でした。
プロを目指す事を諦め、混沌としていた私に救いの手を差し伸べてくれたのは、あろう事か、私が上京の際に置き去りにしてしまった筈のバンド仲間でした。友達の支えによってバンド活動を再開した私に、大学へ進学し地元を離れていた黒光氏から一本の電話が・・・。「コンテストに出よう!」
春休みで帰省した黒光氏を筆頭に、中学、高校時代を共にしたバンドのメンバーで、春休み期間限定のバンドを結成する事にしました。バンド名は、“やまぶき色のオーバードライブ”。このネーミングは、黒光氏が猛烈に下痢した時に思いついたらしい。オーバードライブと云うのは、主にエレクトリックギターに使うエフェクター(効果音に変換させる機械)で、アンプとの間に接続して音を出すと、「ギューン」とか、「バリバリ」いった音になります。
黒光氏がチョイスした曲は、エアロスミスの“WALK THIS WAY”と、The Beatlesの“HELTER
SKELTER”。なんでも、コンテストに出た時に、審査員をアッと言わせる曲がしたかったそうな。
未だにハードロッカーだった私は、エアロスミスはともかくとして、“HELTER 〜”は浜田麻里のバージョン(結構ハードロック調にカバーされていた)しか知らなかったので、「The
Beatlesの曲だったら、結構カルいノリなんだろうな。」とばかり思っていました。ところが、テープを聴いてビックリ!スピーカーから出てくる音は、正にハードロックそのものではありませんか! 破壊的なギター、ヘヴィーなドラムサウンド、シャウトするボーカル(まさかポールが歌っているとは知りませんでした)、「なんだ、The
Beatlesってハードロックバンドだったんじゃないか!」。当然の如くコンテストにはノリノリで参加し、プレイもそこそこに納得のいくものでした。
いよいよ審査結果の発表となり、「絶対グランプリを獲れる!!」とメンバーの誰もが確信していました。ベストプレイヤー賞ではギタリストに黒光氏、ドラマーには私が選ばれ、もう優勝は目前、といった次の瞬間、司会者の声、「今回は、急遽“審査員特別賞”を設けました。選ばれたバンドは・・・・“やまぶき色のオーバードライブ”おめでとうございます!!」・・・・・があぁぁぁぁぁん。「“やまぶき色のオーバードライブ”の皆さんは、このあと審査員の方から大事なお話があります。会場に残っていて下さい。」会場にポツネンと残されたメンバー四人の元へ、ショボくれた中年男性が近寄って来ました。「お疲れさま、楽しませて貰ったよ。今回のコンテストは“十代らしいバンド”を対象にしたコンテストだったんだが・・・君達はねぇ・・・十代らしくナサ過ぎるヨ。選曲といい演奏といい、私達にも充分通用するレベルだ。わざわざ大阪から来た甲斐があったよ。オリジナル曲でメジャーデビューを目指した方がいいと思うナ。他のコンテストでも審査に来るから、必ずエントリーしてくれよ!!」「はい! 分かりました。頑張ります!」グランプリを逃し、東京での全国大会への切符は貰い損なったものの、晴れやかな気持ちで帰路についたのでした。
が、しかし、春休みが終わり、メンバーは又バラバラになり、その後二度と“やまぶき色のオーバードライブ”が再結成される事はありませんでした。
.....其の参へつづく....
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