今、私は間違いなく幸福の中に生きている、と思うことが生きていて何度かあります。しかし、油断なりません。幸福の影にはいつも意地悪な不孝が無気味に潜んでいるものなのです。しかし、安心して下さい。不孝の影では幸福が微笑んでいます。
今までに自分が経験した幸福と不幸。その多くが、いま思えばたいしたことない小さいものだったと思えませんでしょうか。大きい幸福や小さい不孝は、一種の突然変異、津波のようなものなのでありましょう。
小さな不孝を覚悟して、小さな幸福を呼ぶ。これこそが無難な生き方なのかしら。
今、不孝のどん底に生きておられる方、今にきっと、大きな幸福がやってきます。
もう少しの辛抱です。がんばって。
今、この上ない幸福の中に生きておられる方、イッヒッヒッヒッ......
私は「抱きしめたい」でビートルズの虜となったのです。もう離れられないのです。出会いは中学二年生の時でした。曲を聴いてたいへん興奮いたしました。
その頃の私はこう見えても比較的おしとやかで、趣味は華道と絵画でございました。中学二年の夏休みのある日、お友達の野村さんのお家へお伺いいたした時のことでございます。(野村さんは私と違って、とても活発で、はきはきして、えくぼの可愛い元気な方でございました)ああ。その時でございます。彼女が1枚のレコードを持ち出してターンテーブルにそーっと乗せまして、針を置きまして、そうして、あの曲が流れ出したときに、私は生まれ変わり、理屈ではなく、科学ではなく、私はあの曲に抱きしめられ、侵されてしまったのでございます。
こんな、イカした、なうい、ああ、すごい、いい、こんんなの、わたし、はじめてよ。
I WANT TO HOLD YOUR HAND(あなたの手を握ってみたい)
なのに「抱きしめたい」なんで、わたくし、ハラハラさせられますわ。
「THE WORD」という曲をご存知でしょうか。「ラバー・ソウル」に入っています。
三回ほど(お暇な方は何度でも)聴いてみて下さい。歌詞カードにも目を通して下さい。いわゆる「いい曲だ」というものではありませんが、ギター、ベース、ピアノ、ドラム、オルガン(かな?)、マラカス、ヴォーカル、コーラス、愛のすばらしさを説いている詩、リズム、すべてに最先端の輝きを見い出すことができるでしょう。
これであなたも「愛のことば」の餌食となるでしょう。
デート前日になると私は、不安やら、緊張やら、変な期待やらで、動物園のトラのごとく部屋の中を右往左往し、寝不足、朝寝坊、約束に一時間遅れて女の姿はない。もし、待っていてくれたなら、その時は、きっと、きっと、生まれて初めて心の底から「ありがとう」と言えるだろう。しかし、どうせ彼女は消えている。 私は、一人で近鉄に乗り、奈良へ行き、鹿と遊び、大仏の優しいお顔を眺めながら、愛の言葉といかしたギャグを考える。 |